商品詳細

大太刀 傘笠正峯作之(隅谷正峯)

癸亥年二月日 (人間国宝)

Odachi [Suminani Seiho , National Treasure]
重要無形文化財保持者 (人間国宝)
保存刀剣
National Treasure
NBTHK Hozon Paper
No. A00431
白鞘 金着太刀鎺

刃長 : 90.7cm  (3尺) 反り : 3.0cm  (1寸)

元幅 : 3.6cm 先幅 : 2.5cm 元重 : 0.8cm 先重 : 0.6cm

登録証:

石川県教育委員会
平成27年04月21日
国: 石川県
時代: 現代 昭和58年 1983年

鑑定書:

(公)日本美術刀剣保存協会
保存刀剣鑑定書
平成27年07月14日
銘: 傘笠正峯作之
癸亥年二月日
形状 : 鎬造、庵棟、身幅広く、重ね厚め、元先の幅差つき、長寸にて、腰反り高くつき、中鋒詰まりごころの猪首風となる。
鍛 : 板目よくつみ、地沸厚くつき、地景入る。
刃文 : 丁字乱れを主調に蛙子丁子・房の大きな丁子などを交え、足入り、焼き高く、華やかに乱れ、匂深く、匂本位に小沸つき、金筋入り、砂流しよくかかり、明るく冴える。
帽子 : 乱れ込み、小丸に尖りごころに短く返り、先掃きかける。
彫物 : 表裏に棒樋を掻き流す。
茎 : 生ぶ、先栗尻、鑢目勝手下がりに化粧つく、目釘孔一。

説明:

 隅谷正峯刀匠は、大正10年1月24日、石川県石川郡松任町(現在:松任市)辰巳町に生まれた。父:友吉、母:みさおの長男で、名を与一郎という。家業は醤油の醸造・販売で、近在の家家に「舌鼓」のレッテルで商っていた。祖父:与三郎は宮大工の修行をして、京都で東本願寺など仏閣建築に携わっていた。祖父:ひではたいへん博識の人で、幼い与一郎に少なからず影響をあたえた。家の蔵に刀の存在を教え、初めて刀との出会いのきっかけを与えてくれたのは、この祖母であった。

 松任市は、白山を源とする手取り川の扇状地の扇央部に位置する平野で、豊かな穀倉地帯である。江戸時代は加賀前田藩領で、松任城には前田利長らが居城し、藩内諸街道が集まる交通の要所であった。辰巳町にある隅谷家は、江戸時代からこの地にあった。

 昭和14年4月、立命館の高専理工学部の機械工学科に入学した。「立命館日本刀鍛刀所」に入所し、桜井正幸刀匠を講師として、仲間を集め「日本刀研究会」を結成し、日本刀の歴史等勉強に励んだ。その内に、実際に鍛錬をするようになった。昭和16年3月、戦時色強まる時勢柄繰上げ卒業と云うことになったが、何とか作刀への道を模作し、総長の粋な計らいで落第生となって立命館に残り、作刀三昧の生活が始まった。

 桜井正幸刀匠は、固山宗次の系統で、その技術は父:桜井卍正次より受けた。正幸は理論派で、実際にはあまり刀を作らなかった。昭和の初期に立命館から満州皇帝に献上した刀を作ったものなど直刃の刀2~3本以外は殆どなく、短刀がわずかに遺されている。しかし、抜群の博識と、奇想天外な行動や発想、豊かな人間性を備えた人であった。世に「桜井正幸は口で刀を作った」という。弟子達は桜井正幸氏の昼夜におよぶ話術に時の立つのも忘れ、その魅力に惹かれた。隅谷刀匠も師:正幸に魅了され気がついた時には刀鍛冶になっていた感じがすると云う。

 隅谷刀匠の鍛錬場は「傘笠亭」という。これは昭和31年11月、松任の自宅の奧に新設して火入れ式を行った鍛錬所の名称であるが、実はもと立命館の鍛錬所の一棟である古式鍛錬所の名であった。隅谷刀匠は自らの鍛錬所に「傘笠亭」と命名することにより、「桜井卍正次、桜井正幸と続いた芸統を受け継ごう」との決意のあらわれであった。

 作風は、隅谷刀匠は一貫して鎌倉時代の備前刀、特に一文字に自分の目標を置いていた。そして、大般若長光、日光一文字助真、小龍景光、道誉一文字と代表的な備前の名刀の写しを制作してきた。そしてその過程のなかで、自らの形である丁子刃文を作り上げた。「隅谷丁子」と呼ばれ、蛙子丁子、袋丁子が豊かに、匂やかに焼かれた独自の華麗な丁字乱れで一文字を彷彿とさせる。

 本作は、3尺(90.7cm)に及ぶ長寸な大太刀で、隅谷刀匠が昭和56年(1981)に重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けた2年後の60歳の大作となっている。形状は、鎬造、庵棟、身幅広く、重ね厚め、元先の幅差つき、長寸にて、腰反り高くつき、中鋒詰まりごころの猪首風となる。造込みは鎌倉中期における大太刀の優美にして力強い姿形を示す。それは、全体の反り具合、腰元の腰反りと踏張り、中鋒が猪首風となる帽子、肉置き、茎の反り具合などにおけるまで全てに細かな注意が払われることによって構成されている。刃文は、丁字乱れを主調に蛙子丁子・房の大きな丁子などを交え、腰元は複雑に乱れ、足入り、焼き高く、華やかに乱れ、匂深く、匂本位に小沸つき、金筋入り、砂流しよくかかり、明るく冴える。華やかな刃文は丁字乱れの房がふっくらと丸く、匂深く、明るい「隅谷丁子」を惜しむことなくあらわしている。作位は、刃文のほとんど全てが丁子で構成されており、蛙子丁子・袋丁子・大丁子など様々な丁子をみせており、帽子も乱れ込み尖りごころに返る点などからして、隅谷刀匠が理想とした古作:福岡一文字であろう。3尺(90.7cm)の勇壮な大太刀に、一文字を彷彿とさせる華麗な丁字乱れを焼いた隅谷刀匠の代表作といっても過言ではない優品で、焼刃に一点の破綻も無いことにも驚嘆せざるをえない。

備考:

昭和56年(1981) 重要無形文化財保持者に認定。(人間国宝)

詳細写真1